2018年4月から頭頸部がんに、陽子線治療が保険適用になりました。
頭頸部がんの標準治療は手術ですが、がんが治っても見る、聞く、話す、食べるという機能が損なわれます。場合によっては生活自体が大きく制限されます。
そうした事態は、治癒後の人生が長い若年層にとってより深刻です。陽子線治療であれば切らずに治療ができ、QOL(生活の質)も維持することが可能です。
今回は陽子線治療の後遺症と副作用について、治療後4年4ヶ月目を向かえた筆者の体験とともにお伝えいたします。
関連「切らずに治す」治療法、動注療法と陽子線治療の併用治療【動注編】
陽子線を35回照射後の後遺症と副作用
陽子線治療は1回や2回の照射で副作用があらわれることはありません。通常2〜3週間目から症状が出やすくなります。
放射線宿酔
治療開始から数日まであらわれる一過性の症状です。
主な症状は、吐き気、全身倦怠感、ふらつきがあるようですが、私の場合は熱が出て頭痛に悩まされました。(ロキソニンを服用)
舌下部に照射した場合の副作用
皮膚炎
照射した皮膚はやけどで赤くなり、徐々に痛い、熱い、最後はかゆいの三重苦でした。
皮膚炎の症状をおさえるために処方されたもの
- ヒルドイドソフト軟こう0.3%
- クロマイ-P軟こう
- ロコイド軟こう0.1%
- メピレックスライト(局所管理フォーム状創傷被覆・保護材)
味覚障害
陽子線治療6回目を過ぎたあたりから、味覚障害が発生し、次第に病院食が苦痛になります。
何を食べても、甘い、辛い、酸っぱい、美味しい、不味いもわからなくなりました。濃い味もしみます。
陽子線治療10回目終了時、わさび入りのお寿司を食べたら激痛で涙が出て硬直しました。
病院食はおかずが3品出てきましたが食べられるのは一品ぐらい。果物も全て激痛でアウト。病院食は薄味のそうめんが主食に。
陽子線治療22回目、病院食をとめてもらい、自分のチョイスで食べることを主治医が容認。
主なものは、どん兵衛、クリームパスタなど、麺類で栄養を補いました。
口腔粘膜炎
治療後半になると、口にものを入れるのが苦痛になり、食欲が落ち体重が38キロに。
そのため、口内の知覚を麻痺させるうがい薬を、食事の前に使いました。
主な症状は、
- 舌のしびれとやけどのようなヒリヒリ感
- 口全体に口内炎
- 口内の乾燥
粘膜炎をおさえるために処方されたもの
- アズノール軟こう
- アズノールうがい液
- デキサルチン
- 粘膜の知覚を一時的に麻痺させるうがい薬
陽子線治療35回目(治療終了時)
治療開始から退院までの経過
陽子線治療9回目
【治療日誌】口内全体のむくみや口内右側の荒れ、味覚障害の軽度があらわれる。
陽子線治療13回目
陽子線治療14回目
【治療日誌】本日のCT,MRI撮影の結果、治療前の画像と比べ、病変の縮小傾向がみられた。
陽子線治療17回目
【治療日誌】皮膚炎、口角炎の症状があらわれる。
陽子線治療22回目
陽子線治療23回目
【治療日誌】吐き気はおさまってきているが、皮膚の赤みとかゆみ、口内炎も強く出ている。軟こうとうがい薬で対処。
陽子線治療25回目
陽子線治療28回目
【治療日誌】のどの痛みが強く、せきも出て照射時に静止するのが困難。うがい薬とロキソニンで対処。
陽子線治療28回目
【治療日誌】ロキソニンが効かなくなったので、医療用麻薬オキシコンチンを一日2回服用。
陽子線治療30回目
陽子線治療32回目
【治療日誌】皮膚炎が強いため、スウェーデン製のメピレックスライト(自費)を陽子線科で処方してもらう。
現在残っている後遺症
味覚障害
香辛料など刺激のきついものは舌が敏感に反応するため食べられません。
- 辛子明太子
- カレー(中辛以上)
- わさび
- 麻婆豆腐
口腔粘膜炎
唾液があまり出ないため、口腔内が乾燥します。そのため常に飲みもの(自家製クマ笹茶)を持ち歩いています。
皮膚炎
照射した部分にやけどのシミができていますが、徐々に薄くなっています。
治療後4年4ヶ月の患部
陽子線治療についてのQ&A
Q.入院は必要ですか?
A.動注との併用治療の場合、入院が必要です。期間は照射回数と副作用の出方にもよりますが、2~3カ月かかります。私の場合35回の照射で58日入院しました。
Q.治療はどのくらいの日数がかかりますか?
A.頭頚部がんの場合、照射回数は35回/7週間になることが多いようです。
陽子線治療は、月曜日から金曜日の週5日間、治療があります。ただし、祝日は治療がありません。動注治療日でも陽子線治療はおこなわれます。
Q.照射中に痛みや副作用はありませんか?
A.照射自体に痛みや熱を感じることはありません。
すこし焦げるようなにおいを感じる時がありました。
頭頚部がんの場合、お面を装着して照射をおこないますので、閉所恐怖症の方は精神的につらい治療となるかもしれません。
治療後半になると、せきが頻繁に出るようになります。照射中にせきが出ないようにコントロールするのが一番難しかったです。
Q.陽子線と重粒子線の違い
A.粒子線治療の専門医である不破先生は、過去に飛行機にたとえて説明をされています。
飛行機好きの不破先生は、放射線療法を「プロペラ機なんですよ、X線は。陽子線はジェット機。重粒子線は超音速旅客機」と飛行機にたとえます。「プロペラ機では心もとない。超音速では、確かに速く遠くに行けますが、速すぎて疲れます。ジェット機は快適で汎用性も高い」とがんに対する陽子線の優位性を強調。